COLUMN

 


推薦図書

読書の秋に、3冊の本を紹介したい。
正確には、三作5冊。
ぼくも友人から紹介してもらったんだけど。
この三作の共通点。それは、推薦人にビル・ゲイツが名を連ねていること。
亀田亮も推薦するよ。



唐突に、まっちゃんからメッセージをもらう。いままでもらったことないのに。

「この本亀ちゃんにあうかも!」
 

「FACT FULNESS(ファクトフルネス)」/ハンス・ロスリング/日経BP社


早速買って来る。
机の上に置いてあったのを、娘がめざとく見付ける。

「この本どうしたの?」
「まっちゃんが紹介してくれた」
「へー。なんでお父さんに?」
「そりゃ、オレがインテリ枠だからだろ」
「表紙に“10の思い込みを乗り越え、世界を正しく見る”って書いてあるよ」
「書いてあるね」
「いつも思い込みでうるさいこと言うから、これ読んでなんとかしろってことじゃないの?」
「うっ…」

ま、まっちゃん、そ、そうなの?そうなのかー?

イントロダクションに「クイズに挑戦してみよう」として13の三択問題が並んでいる。「世界の事実に関する13問のクイズ」だ。
おもしろそうなので、コピーして家族でやってみる。
奥さん1問、娘(高2)1問、息子(中3)2問
という正解数。
オレ、10問正解。

「お父さんスゲー!!!」

はははははっ。ちょー良い気分。

子供達はともかく、奥さんの正解数が1問というのは酷い、と思うかもしれない。
でも、ウチの奥さんのことをバカにしてはいけない。
バカにしてはいけない理由は、二つ。

ひとつは、まるっきりのバカではないからこそ、正解数が1問なのだ。考えてみて欲しい。正解らしき答えがまるで分からず、全てをランダムで選んだなら(本書ではそれを「チンパンジー」と呼ぶが)、三択が13問なのだから、4問程度は正解する。しかし1問。そんなチンパンジー以下の結果を出してしまうことこそが思い込みのなせるワザ。その思い込みがどのようなものであるかを明らかにするのが本書の目的なのだから、ウチの奥さんこそ、理想的な読者なのだ。
いじけちゃって、読もうとしないけど。

バカにしてはいけない、もうひとつの理由。
それは、すでにぼくが散々バカにしたからだ。
ことあるごとに、

「でたよ。アキコフルネス」

とか言って。
これ以上不機嫌にするとマズい。

ともあれ、まっちゃんは実に良い本を紹介してくれた。いままでに読んだどの本よりも、良い気分になったよ。
皆さんも是非ご一読を。んで、クイズの正解数を報告してくれたまえ。



次に読んだのは
 

「サピエンス全史」/ユヴァル・ノア・ハラリ/河出書房新社


この本は、1年ほど前に米っちょに紹介された。
大ベストセラーだから名前くらいは知っていて、紹介されて、気にはなっていたんだけど、ついつい後回しに。
だってさ、大変失礼ながら、米っちょに読書のイメージってないじゃん。

「サピエンスは小麦の奴隷なんだって」

ちゃんとその時の会話も覚えている。烏帽子岳からの下山の途中だった。

その「サピエンスは小麦の奴隷」ってのは、上巻のちょうど真ん中あたりで登場する。
そこに至るまでがちょっと退屈(石器時代のことなんか、誰も分からないからね)なんだけど、そこから尻上がりにおもしろい。

この本では、ホモ・サピエンスは種としての繁栄は達成したが、幸せになれたのか?という問題意識が貫かれていて、その辺が、他の歴史を扱った本とは違う。
米っちょの言う「サピエンスは小麦の奴隷」ってのもその一例。ちなみに、これ(本書での正確な記述は「サピエンスは小麦に家畜化された」なんだけど)、我が家で開陳したところ、三人(奥さん、娘、息子)揃って「おおー!」って。ホントに、目から鱗が落ちた。

個人的に驚きだったのは、産業革命の影響に言及した箇所。「これまでに人類に降りかかったうちで最も重大な社会変革」として「家族と地域コミュニティの崩壊」を挙げていたこと。
ぼくは「家族と地域コミュニティの崩壊」を、日本に特有ないし顕著なこと、とばかり思い込んでいたので、世界中そうなんだ、というのはビックリだった。

サピエンスは幸せになれたのか、という視点。終盤にかけ、幸せとは何か、ということもきちんと考察される。そして、ブッダの教えにたどり着く。これがすごく腑に落ちる。なるほどね。
と、そこからラストは、エヴァの人類補完計画じゃねーか、という怒濤の展開。

もう、めちゃくちゃおもしろい。
米っちょにも、教えてあげよ。あれ?



「サピエンス全史」を読み終えたのは、つい最近。米っちょが紹介してくれた1年前に読んでいたのは
 

「アメリカ経済 成長の終焉」/ロバート・J・ゴードン/日経BP社


という本。
これは、良司の紹介。
もっとも、個人的に推薦してくれたわけではなく、Facebookに

「生活水準の来し方行く末に関心がある方には、手触り感が満載で、お勧めです」

と書いていたので、取り寄せた。
紹介されていた本を、実際に読む人と読まない人。それが、ぼくとあなたとの差です。フフン。

ところで、ゴードン。山形浩生とかはノーベル経済学賞の候補に推すくらいで、正統派の大御所。
だから(と言って良いのかどうかは分からないけど)、すごく丁寧にきちんと書かれているように思えた。

ぼくにとっては知らないことだらけだったので、書かれている事例のほとんどが驚き。
一番驚いたのは、内燃エンジンの発明が、公衆衛生の向上に大きく寄与した、という点。ちょっとその視点はなかった。
つまり自動車の発明によって、皆が健康になった、ということ。
どういうことかというと、自動車以前は馬車。よって、街中が馬糞だらけ。馬糞に止まったハエが、網戸もない時代、家の中に入ってきて食料に止まる。ハエの手触り感が満載。要するに、当時の人間は馬の糞を食べていたようなもの。みんな下痢して死んでいった。
ということが、もう少し上品に書かれています。



「アメリカ経済」「ファクトフルネス」「サピエンス全史」、奇しくも、同じハナシをしている。すなわち、人類は豊かになった、と。
もちろん、切り口は違うし、結論も異なる。
「アメリカ経済」は、成長のフロンティアはもはやないのではないか、と言い、「ファクトフルネス」では、(先進国以外の国の)発展の余地と必要性が説かれ、「サピエンス全史」からは、哲学的な視点が提示されるのだが。

三作を読み、振り返ってみたときに思い至ったのは、先進国で生きる我々が感じる息苦しさの理由だ。
そんなことは、三作のどこにも書かれていない。だからこれは、ぼくの考察だ。

すなわち、人類は豊かになり、そして現在も、グローバルに見れば豊かさの平均点は上がり続けている。この「平均点が上がり続けている」というのがミソで、それは先進国が相対的に貧しくなっていることを意味する。
平均点が上がると偏差値が下がる問題だ。

ゴードンは「もう成長しない」って言ってるし、ロスリングは「世界を良くし続ける」と言ってくる。先進国に生きる中産階級にとって、これはキツイ。
ニュース映像で見かける先進国の多くが、なんだかうまくいっていないように感じられるのは、この辺に理由があるのではないか、と思った。



出版不況が叫ばれて久しい。
忙しく仕事して、疲れて帰ったら、酒飲みながらネットで情報収集。そして、あとは寝るだけ。そんな生活なんだろうか。みんな本なんか読まないんだろうな。
なんてことを勝手に思っていた。
でも、読んでる人は読んでいる、と当たり前のことを知る。

そして、本を紹介してもらうのは、とても素晴らしいことだった。
その本を読むとき、紹介してくれた彼の顔を思い浮かべる。
ページをめくる度に

「アイツもこれ驚いたんだろうな」
「アイツもここをおもしろがったに違いない」

って。
おっさんずラブ ~LOVE on BOOK~

さあ、次は何を読もう。
 
 

2019年9月17日
 

 
 

ページの先頭へ