COLUMN

 


小説「TEST」

先日、誕生日を迎え、46歳になりました。
何人かの女子からおめでとうメールなどいただきまして、嬉しい限りです。
そのうちの一人が、初恋の彼女。
初恋のあの日から40年を経て、誕生日おめでとうメール。
これが30年前なら、鼻血出てたと思いますけどね。でも46歳の今だって、嬉しいですよ。

「うちの父と誕生日同じなのでうっかり覚えちゃった」

と。
父さん、ナイス!
さらに嬉しかったのは、ぼくの駄文を褒めてくれたこと。

「けっこう楽しんでます」

って。
いやこれは嬉しいでしょ。
各方面から不興を買っている我がコラム。

「なにあれ?」
「くだらない」
「長くて読む気にもなれない」

いやホント、我ながらくだらないとは思いつつ、書いてきて良かったなと。感涙不可避。
くじけそうになった日もありましたけど、ぼくはこれからも書き続けますよ。キミのために(キリッ
まぁ実際のところ、くだらないコラムを書くのは趣味だから。これからも気まぐれで書き散らかすことでしょう。

コラム書いてると、たまにされる質問があります。

「小説は書かないの?」

ぜんぜん分かってない。コラムと小説はぜんぜん違うから。
分かりやすくたとえるなら、コラムニストが小説書こうなんて

「お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」

って事態の時に、歯医者が出張っていくみたいなものだからね。
そのぐらい、違う。

違うハズだったんだけど、書いてみたら書けちゃったんだよね。

今年の2月、上京したらインフルエンザもらっちゃって、一週間布団にもぐってウンウンうなってるときに、なんとなくひらめいて、起き抜けに2時間くらいで。チャラチャラっと書けちゃった。
うん。YOS。やっぱ俺スゲー。

で、文学賞ググって、適当なのに応募。
本日「3次審査通過作品」の発表があって。
あれ?オレの作品が残ってないじゃん。どーゆーこと?
結構、おもしろいと思うんだけどなぁ…。
 


 

TEST

かめだりょう


受験票を見ながら、指定された座席に着く。
このTESTを受けるのは何度目だろう。何度受けても私はこの独特の緊張感がたまらなく好きだ。
TESTはビジネスマンとしての能力を測る、事実上の世界基準となっている試験。合否ではなく1万点満点のスコアで評価され、世界各国で実施されている。
能力を公平公正に評価できることから、ほとんどの企業はTESTのスコアで採用を決める。入社後も昇進昇給の基準とする企業が多い。
もちろん、画一的な基準で人間を測るなんて、という批判も一部にはあるが、少なくともビジネスの分野において、人種や国籍による差別が事実上なくなったことを考えるなら、そんな批判は的外れだろう。
もっとも、私自身は個人事業主であるから、TESTのスコアが直接何かの役に立つわけではない。しかしそうであっても、いや、そうであるからこそ、常に自分の実力を客観的に知っておく必要があるのだ。
ただ、それにしても受けすぎではある。年間10回のTESTすべてを受験している。そう、正直に言えば、私はTESTマニアなのだ。

「あの、失礼ですが、もしかして」
「はい」
「あ、やっぱりそうだ。一度お目にかかりたいと思っていたんです」
「はじめまして」
「今年も全回受験されるおつもりなんですか?」
「そのつもりでいますが」
「去年も全回受けられたんですか?」
「はい」
「で、全部1万点満点だった?」
「いえ、実は1回満点を逃しまして」
「そうだったんですね。それにしてもすごい。私は8千点台後半をウロウロしていて、なかなか9千点を突破できないんですよ」
「9千点はひとつの山ですね」
「でも、今回は自信があるんです。ラーニングシステムを導入したんですけど、あれ、とっても捗って」
「あれ良いですよね。私も今年から導入して。捗ります」
「あなたは必要ないじゃないですか」
「いえ、TESTに役立つものなら、何でも取り入れていこうと思っています」
「さすがです。お話しできて良かった。なんだか自分までうまくいきそうな気がしてきました」
「そうですか。それは良かった。頑張って下さい」
「ありがとうございます」

私はTESTマニアとして、この界隈ではちょっとした有名人なのだ。今のように話しかけられることも少なくないし、時には握手を求められたりすることもある。さすがに少々気恥ずかしいが、かといって悪い気もしない。

今回のTESTもすこぶる順調だった。難易度は少し高めだったが、迷う箇所もなく、これなら間違いなく満点だろう。
先ほどの人との会話にも出てきた、ラーニングシステムの効果も大いにありそうだ。AIが搭載されていると言われるラーニングシステムは、難易度の強弱をつけつつ、常に適度な歯ごたえのある問題を次々と投げかけてくる。必死に食らいついているうちに、夢中になって、いつのまにか驚くほど捗っている。
現代が「AIの時代」、と呼ばれるのもうなずける成果だった。

終了の合図と同時に帰宅しても構わないのだが、なんだかんだと帰らない人の方が多い。30分もすれば結果は判明する。結果は自分の端末に送信されてくるが、その結果がもたらす喜びや悲しみを、試験会場の戦友たちと共有することが、皆好きなのだ。私も、悲喜こもごもの教室の風景を見ることがとても好きだ。

「ピッ」

端末に着信があり、満点を確認して小さく頷く。
次の瞬間、教室のあちこちで、試験会場の方々から、喜びを爆発させる声が響いてくる。
皆、自分なりの目標を達成したのだろう。
努力を重ね、目標を達成し、喜びに沸く。世の中にこれほどすばらしいことがあるだろうか。

気が付けば、先ほど話しかけてくれた人も、どうやら目標を達成できたようだ。

「どうでしたか?」
「ありがとうございます。ありがとうございます。やりました」
「おめでとうございます。よかったですね」
「ありがとうございます」
「で、スコアは?」
「満点でした」
「えっ?」
「一万点満点でした」
「ええっ…」
「私自身もビックリしています。受験前から実力がついている手応えはありましたし、試験中も自信を持って回答できていましたから、かなりのスコアが出るとは思っていました。でも、まさか満点が取れるなんて。試験前にあなたとお話ししたのが良かったのかもしれません」
「いえ、私は、何も…」
「とにかく、TESTにおける究極の目標まで一気に達成できて、こんなに嬉しいことはありません。帰ってお祝いしなくちゃ。それでは」
「おめでとう…」

にわかには信じられない。8千点台後半の人が、一気に一万点満点のスコアを出すことなど、自分の経験からは考えられない。9千点突破はひとつの山。しかし、9千点から満点までの間には、まだひと山もふた山も高い山があるはずなのだ。
しかも、それ以上に驚いたのは、満点スコアラーが一人や二人ではないこと。同じ会場で普段なら一人いるかいないかの存在が、20名もいるらしい。平均点も急激に上昇している。
これがラーニングシステムの効果、これがAIの力なのだろうか。

私はなんとなくまっすぐ家に帰る気持ちになれず、試験会場近くの友人宅に顔を出すことにした。

「こんにちは」
「おぉ~、久しぶり!どうした?」
「近くでTESTがあったから」
「また受けたの。好きだねぇ。で、どうだった?」
「満点だったよ」
「スゲーな。でも、その割に冴えない顔じゃね?」
「そんなこともないんだけど…。今回、満点を取った人がたくさんいてさ」
「簡単過ぎたのか?」
「いやそうでもなくて、むしろ難易度は高かったよ」
「へー。じゃ、どうしてみんな満点なの?」
「どうも、勉強の方法が変わったみたいだね」
「なるほど。それで満点が取れる自分の価値が相対的に下がるから、冴えない顔だ、と」
「そんなつもりじゃ」
「良くないなぁ。優秀な人間が増えたことを喜ぼうじゃないか」
「うん…」
「それよかさ、一緒に山に登らない?半年後にヒマラヤに登るんだ。いつもの二人も一緒だし」
「半年後にヒマラヤ?無理無理」
「無理じゃないって。オレたちもこれからトレーニングするんだから」
「半年のトレーニングでヒマラヤに登れるの?」
「AIによるトレーニングシステムが完璧なカリキュラムを組んで、最短で高地順応する身体をつくってくれるんだってさ。て言うかね、オレたち三人なら、ホントは3ヶ月で登れるはずだったのよ。ところがさ、どこで計画を聞きつけたのか知らないけれど、横町のご隠居、あのじいさんが、ワシも連れて行け、と、こうきたわけ」
「うん」
「冗談じゃねぇと思ったんだけど、AIがさ、じいさん連れていれば、ヤバいときに最初に倒れるのはじいさんだから、それが撤退の目安になる、って言うんだよ」
「ええっ、AIってそんなこと言うの?」
「オレには、ね」
「相手によって言うこと変わるの?」
「あとで聞いたら、ジャガリーには、4人の方がチームのバランスが良いです。ズブちゃんには、いざというときの年寄りの知恵はあなどれません、って言ったんだってさ」
「えぇぇ」
「年寄りの知恵なんて、そんなのAIが全部把握してんだろって思うんだけどさ、なんだかんだで3人とも納得しちゃったもんだから、横町のご隠居も一緒に行くことになっちゃったと、こういうわけ。で、3ヶ月のはずが半年かかる、と」
「なるほど。でもすごいね。こう言っちゃ何だけど、まるっきりの素人が3ヶ月だの半年トレーニングすればヒマラヤに登れるようになっちゃうんだねぇ」
「だよなぁ。AI様様だよ」
「AIかぁ。ホントにAIはすごいね」
「すごいよなー。でもさ、奴らもまだまだ未熟なところがあるぜ」
「えっ、どんなところ?」
「こないだ試しに聞いてやったんだよ。鏡よ、鏡、鏡さんみたいに、AIさん、世界で一番賢いのはだあれ?っつって」
「うん」
「そしたらさ、世界というような未規定なことについては答えられません、とかぬかすんだよ」
「なるほど」
「ミキテーィと叫びながらTシャツ破いたぜ、オレは」
「破いては、ないよね」
「破いては、ないね」
「はは」
「面倒だなぁ、とは思ったんだけど、じゃあ、高校の同級生の中ならどう?イニシャルで良いから言ってみっつって聞いてみたわけ」
「ふんふん」
「そしたら、RKさん、だってさ。キタコレ」
「へー」
「いや嬉しいじゃねぇか。オレだってオレが同級生の中で一番賢いとは思ってないワケよ。そんなこたぁ分かっちゃいるけど、そうであっても、そう言ってもらえるってのは嬉しいもんだからさ。AIも世辞を言うようになったのか。もう時代はAIのものだ、ってね」
「お世辞ねぇ」
「で、さあ良い子だ、そのRKさんが誰だか教えておくれって聞いてみた」
「うんうん」
「そうしたらあの野郎、Ryoji KAMATAさんです、なんてぬかしやがる。リョウじゃなくてリョウジか?おいテメーこのヤロー、ひとつ教えておいてやる。そういうのをジ余りって言うんだー!」
「ははははっ」
「最後はピポッとか言ってたわ。あいつら、シャレが分からねーな」
「ふふふっ。そう言えば、リョウジ君どうしてるのかな?」
「知らねーよ。国技館でハッケヨイノコッタとか言ってんじゃねーの?」
「それはリョウジじゃなくて行司でしょ。ひどいね」
「すまん」
「うん。でも楽しかったよ。どうもありがとう」
「おう。ヒマラヤ行き考えといてくれよ」
「そうだね。じゃあ、また」

ここでも、やはりAIだ。AIが提示するカリキュラムをこなしていけば、最大限の効果が最短で達成できる。これまで必死の努力を重ねてなお、なかなか到達できなかった領域に、いとも簡単にたどり着くことができる。
それは確かにすばらしいことではあるだろう。しかし、己の欲望を退け、真摯に努力を重ね、ついには努力自体が習慣となり日常となってこそ、その達成には価値があるのではないだろうか。
私が初めてTESTを受験したとき、そのスコアは6千点だった。その日から、一日も休まず続けた努力によって、1万点満点を記録するまでに、10年かかっている。ほぼ確実に満点を取れる現在は、初めての受験から15年だ。
15年間の不断の努力。継続は力。努力は決して裏切らない。

「ピッ」
「ふぅ~。今日はまたいつも以上に捗ったなぁ」
「本日ソフトウェアがバージョンアップし、さらに効率がアップしています」
「そうだったのか」
「今回のバージョンアップにより、6千点の人が半年間勉強すれば満点が取れるカリキュラムとなっています」

 

2017年12月26日

 


 

これまでにいただいた感想

 
まだちょっと設定やストーリーが弱い」(46歳・男性)
「もっと面白いのが書けるんじゃない?」
(46歳・男性)
「また熱が出たら書いて下さい」(46歳・女性)


黙ってここにアップしても誰にも読まれない。Facebookにリリースすると、読んでもない人に「いいね!」とかされるのがシャクだってのもあるし、「高校の同窓生の顔が何人か浮かんだような笑」(46歳・女性)ってのもあるので、厳選3名にメールして「読んで」と。
で、いただいた感想が上記の3つ。

おもしろいと思ってるのは、書いた本人だけなんでしょうか?
受賞して、その後の展開までバッチリ妄想済みだったので、その妄想を収束させるのに苦労している2017年の年末。
皆様、良いお年を。
 

(追記)2017年12月28日
 

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