COLUMN

 


登山部!

北アルプス縦走。
初めての北ア。初めての小屋泊。
本年のメインイベント。
今年、ムキになって山に登っていたのは、この登山のためだ。数えたら、今年5月以降23回も登っている。山の大小はあるにせよ。
23回中9回は米っちょと。すべては北アに向けてのトレーニング。徐々に難易度を上げていく、完璧なプランニング。さすが米っちょだ。
おかげさまで、無事に行ってこられました。
素晴らしかった。登山者の誰もが「北アルプス♡」と言う理由が分かった。
大満足の3日間。
大満足の反動で、帰宅後、気が抜けて何もやる気が起きないのが唯一の困りごと。

一緒に行ったのは、米っちょと西村くんと、といういつもの3人。
「いつも」と言っても、実際に3人揃って登るのは、2年ぶり2度目。2人で登ることは何度もあったけれど、3人はなかなか揃わない。今回の山行にあわせて、皆がスケジュール調整しての勢揃い。
そして今回は、同行メンバーがもう3人。みんなのアイドル長田真理子のご主人。その友人が2人で計6名だ。

「あれが真理子ちゃんのご主人かぁ」
「そう。サトルさん」
「真理子ちゃんはああいう人が好きなんだね」
「寡黙な人だよ」
「へー」
「亀ちゃんと正反対」
「はぁ?」

そんなこと聞いてねーし。長田、結構オレのこと好きだし。
そして、よく誤解されるのだが、ぼくは無口な方だ。
あっ、いま失笑が聞こえた。
うむ。確かに「無口」は語弊がある。しかし、そうかと言って、自分から話すタイプでもないのだ。
これは本当のことで、ぼく自身、そのことに気が付いたときは結構びっくりした。あ、オレ、ネタを振ってくれる人がいないときは黙ってるんだ、って。

今回は総勢6名。
5人が代わる代わるネタを振ってくれる。
キメるのはオレ一人。もう、気分はズラタン。ズラタン・イブラヒモビッチ。

「オレはカメダだが、お前らは誰だ?」

そんなカンジ。
今回はなかなか調子が良かったよ。
亀田バズーカ炸裂。行けるところまで亮的緩和。

皆で、遙か彼方の稜線に人が見えるかどうかで盛り上がっている。

「えっ、どこですか?全然分からないなぁ」
「ほら、あそこのちょっと膨らんでいるところから少し右に行った」
「うーん…」
「…」
「あっ、あそこだ。見えます。おおっ、あの子結構カワイイですね!」

これ、結構ウケたし。
特に初対面の3人にウケてましたよ。
サトルさんも

「カワイイって(笑)」

みたいに、反芻しながらウケてたからね。

もちろん、長い付き合いの二人にも全力投球でしたよ。
 
「ねえ、西村くん。あの尖った山、なんて名前かな?」
「うーん、なんだろうねぇ」
「ああ、あれは槍だよ」
「いや、亀ちゃん、槍ヶ岳じゃないよ」
「あの山の名前はわからなくても、槍ヶ岳じゃないことは分かる」
「へー」
「テキトーだなぁ。じゃあ、あっちの山は?」
「槍」
「いや、亀ちゃんに聞いてないし」
「しかもいま、見もせずに答えたよね」
「ホント、テキトー」
「だいたい、槍ヶ岳いくつあるの?」
「そりゃ、槍は三本でしょ」
「はぁ?」
「なにそれ?」
「三本の槍。カメノミクスだよ」
「…」
「……」

いやこれ、結構なギャグですよ?山の名前を質問したところから「カメノミクス」に着地してるんだから。相当高度。およそ3,000メートルくらい?

「なんだよなんだよ。こっちがオモシロいこと言ってるのに、お前らときたら」
「なにその、ウケないのは客が悪い的な言い方は」
「ちっ」

てなわけで、そこからはしばらく、お口ミッフィー。黙って歩く。
二人とも徐々にペースが落ちていく。
ほらみろ。初日は下らないことを言った方が良いんだよ。初日は登りばかり。つまり、下らない。

山小屋に無事到着。
明日は、二手に分かれる。
ぼくらは、北穂高岳へ。涸沢岳から北穂高岳へのルートは難度E。これは最高難度だ。文字通りの断崖絶壁。
サトルさんたちのルートは、E難度のさらに上。ランク外。国内最難関コース、泣く子も黙るジャンダルム経由の西穂高岳。

「明日、サトルさんたちが行くのって、なんて名前だっけ?ジャンヌ・ダルクじゃなくて、ジャン・バルジャン?」
「ジャンダルムだよ」
「それってどういう意味?」
「フランス語で衛兵って意味らしいよ」
「えーっ!へぇ~」

すまない。つまらないことを言ってしまった。
いや、イチローも言ってるじゃないか

「4000本のヒットを打つために、8000回以上の悔しい思いをしてきている」

って。
ぼくだって、いつもいつもオモシロいことを言えるわけじゃない。

「ぷぷぷっ」
「ぶわっはははははっ」

ええええっ。ウケてる。ウケてるじゃん。
今回の山行で一番ウケたギャグがまさかの、これ。
正直、ちょっと傷ついている。

そんなぼくの気持ちも知らず、夜は更ける。
我々登山部は、写真部でもある。
ぼくはNikon。米っちょはCanon。西村くんはSONY。皆、ご大層なカメラを担いで登っている。
夜景撮影の開始だ。
夜景撮影と言えば、米っちょ。昼間忙しい米っちょは、夜な夜な夜の街へ繰り出しているそうだ。奈良井宿で撮った夜景は、テレビで紹介されたほど。
一方、西村くんは、初めての夜景撮影。
米っちょがレクチャー。設定やコツを、惜しみなく教えている。

「米っちょ、やさしいよね」
「うんうん」

ただし、やさしいやらしい一字違い、ということをご存知だろうか。
ここに、徳島の山ガールが登場する。
思い出していただけるだろうか。ぼくが滑落しかけた、あの西駒登山で出会ったのが、その彼女だ。穂高岳山荘で働いている。
今回の隠された目的のひとつは、彼女に会うこと。
そんな彼女が、夜景撮影に登場だ。
すっと近づく、米っちょ。
レクチャーをはじめる。

「あのヤロー、「奥手だから」とか言いつつ、いきなり奥の手を出しやがって」

標高3,000メートル。見える光は星の瞬き。カメラ片手の山ガールと、ファッションモンスターのヤサ男。

恋、始まりますか?

K子さん、安心して下さい。同行者はぼくと西村くん。不動のKYツートップ。一瞬たりとも、二人きりにはさせません。むしろ西村くんが一瞬二人きりになっとる。うん、でもこっちはno problem。事故はない。

無事故に感謝しつつ、ぼくらは眠りについた。
瞬殺。爆睡。

先述の通り翌日は、3人で北穂高岳を目指す。
難度Eのルートは、画的には確かにエグい。

「こんなところ歩くの?」

と、一瞬絶句しちゃうくらいなんだけれど、実際にそこに行ってみれば大したことはない。アクロバチックな動きが要求されるわけではないのだ。
最も危険と思われる箇所も、鎖から梯子へ50cmほどまたげば良い。ただし、その50cmから覗く谷底は300m下。
このルートに限らず、山で事故が起こるとすれば、その原因のほとんどは悪天候か疲労だろう。今回の山行を通じて、ヤバイと思った瞬間は一度もなかった。

もっとも、この日6時間以上歩き、苦労して山小屋に到着して確認してみると、わずか3.7kmしか歩いていなかったことを知って愕然とした。やはり、普通の道でないことは確かだ。

翌日は下山。5時間16kmを歩いて、ゴール。最初の1時間は、よく整備された登山道。そのあとはひたすらフラットな林道。途中、西村くんは3度もソフトクリームを食べた。もはや登山ではない。家族連れで、またはデートで来るべき場所。そんな道をくたびれた汗臭いオッサン3名で歩く。ちょっとツライ。

上高地で、サトルさんたちと合流。
国内最難関コースはやっぱり伊達じゃなかったらしい。
ヒマラヤに10回登ったというリーダーは相変わらず冷静だったけれど、他の2人は、少し興奮気味。
再会第一声の

「楽勝だったゼ」

から、聞けばハンパないエピソードがぽろぽろこぼれてくる。
特にサトルさんは極度の緊張を強いられるジャンダルムを通過したところで、その解放感と疲労から、山の上で20分ほどぶっ倒れていたらしい。
恐ろしい話だが、無事帰ってきてしまえば、それも笑い話だ。

楽しい話は、尽きない。
しかし、別れの時は来る。
なんと楽しい3日間だっただろう。

「いい人たちだったね」
「そうだね」
「また会いたいよ」
「うんうん」
「でも、サトルさん、寡黙ではなかったね」
「そう?」
「だって楽しい話をたくさん聞かせてくれたじゃん」
「あれは、我々に気を遣って話してくれたんだよ」
「そりゃそうだろうけど」
「亀ちゃんは自分が話したいときにしか話さないでしょ。やっぱり正反対」
「ぐぬぬ」
「反射でしゃべってるよね。脳まで達してないでしょ」
「そう言われると、ノーとは言えないけど」
「…そういうのって、どういうリアクションを求めてるわけ?」

どういうリアクションって…
また誘って。
 

2016年8月19日

 
 

 
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