COLUMN

 


売り家と唐様で書く三代目

駒ヶ根の店を閉店しました。
祖父が「亀田薬店」として始め、母が「亀田薬局」として大きくした店で、100年近く続いていたのでしょうか。
そんな店が、本日閉店です。
 
「売り家と唐様で書く三代目」
 
という川柳を思い起こさずにはいられません。
閉店のお知らせハガキを印刷しつつ、その宛名を見ていると、いろいろなことを思い出してきます。
 
今回は、薬局での印象深かった出来事を、いくつか書いてみたいと思います。
 
野菜や果物をよくいただきました。
印象深い、というか、実際には頻繁にあることで、個別にはとても覚えていませんが、ありがたかったなと感謝しきりです。
駒ヶ根の商店街で商売をやっていれば、どこも多かれ少なかれ、お客さんに野菜をもらうことはあるのだろうと思います。本当によくいただきました。
皆さん、自宅で採れた野菜を段ボールにどっさりと。
段ボールを持って入店してくる方がいると、もはやパブロフの犬状態で
 
「おっ、何くれるんだろ?」
 
と目を輝かせていたものです。
同じ地域に住んでいるわけですから、別々のお客さんから、同じタイミングで同じ野菜をいただくこともしばしば。30日間連続でゴーヤを食べ続けたこともありましたが、それも良い思い出。感謝しかありません。
 
薬局ならでは、と思われるような出来事もありました。
こう言っては何ですが、薬局のお客さんというのは、基本的にはどこかを病んでいます。
病んでいるのは、身体とばかりは限りません。
遠慮なく言ってしまえば、ちょっとヘンな人もやって来るのです。
 
もう、10年以上前になりますが、その男はやって来ました。
店に入ってくるなり、カウンターのテーブルを「バンッ」と両手で叩き、叫びました。
 
「死にたい!死にたいんだ!死ねるクスリをくれ!!」
 
店内にいた一同、唖然。
しばしの沈黙のあと、機転を利かせた薬剤師(←母です)が
 
「これ飲んで落ち着いて」
 
と、ビタミン剤だか整腸剤だかのサンプルを渡しました。
余談ですが、クスリのサンプル、というのも時代を感じます。昔は製薬会社がサンプルをどっさり持ってきたのですが、いまは禁止されたのかってくらい、持ってきません。そもそも、製薬会社の営業なんて、最近まったく来ないや。
 
ともあれ、そんな何かのサンプルを渡したのです。
その男は一言
 
「これ、飲んでも大丈夫?」
 
と。
オマエは死にたいんじゃなかったのかと問いたい。問い詰めたい。小一時間(以下略
男は、そのサンプルを受け取り、おとなしく帰って行きました。
 
もうひとつは、驚いた話。
これは比較的最近の出来事で、そのお客さんも健在なので、仮に個人が特定できちゃったとしても、ここだけの話にして下さい。
 
そのお客さんは陽気な人で、薬局に来るたびに楽しくおしゃべりをしていってくれます。
当時の話題は、もっぱら、飼い始めたペットのこと。ウサギを飼っているそうで、ピョンちゃん(仮名)のことをいろいろと話してくれました。
ピョンちゃんの写真は、もちろん見せてもらっています。
夕方放送される、地方ニュースのペット自慢のコーナーに応募したこと。
応募が採用されたこと。取材が来たこと。
その放送は、DVDに録画したものを、頂戴しています。
配達でお伺いした際は、ぼくも商売人ですから
 
「これが噂のピョンちゃんですか。うひょぉ、ホントにかわいいですね」
 
くらいは言うわけです。商売人ですから。
お客さんも喜びます。
 
そんなお客さんが、ある日、泣きながら薬局にやって来たのです。
聞けば、ピョンちゃんが死んでしまったとのこと。
悲しいことではありますが、ウサギの寿命を考えれば、いずれはこんな日が来ることも、致し方のないことです。
 
お客さんはひとしきりピョンちゃんの思い出を語ったあと、
 
「亀田薬局の皆さんには、すごくピョンちゃんのことを応援してもらったから」
 
と、段ボールを差し出しました。
 
「応援なんて、そんな。いつもかわいい写真を見せてもらって、こちらこそお礼を言わなくちゃいけません」
 
くらいの返事をして、一応、その段ボールを受け取ることを辞退。
お客さんは、どうしても受け取ってくれ、と言わんばかりにこちらを見つめています。
さて、なんの野菜かしらと、受け取った段ボールを覗きました。

……
そこには、ピョンちゃん。ピョンちゃんの御遺体が。
腰が抜けるほど、驚きました。
これも良い思い出…、いや、さすがにこれはトラウマに近い。ウサギだったにしても。
 
いざ閉店となると、いろいろなことを、それこそ走馬燈のように思い出してしまいます。
でも、思い出に浸ってばかりはいられません。前を向いて歩いていかねば。
なんせ、明日から、うんと暇。
 
以前、酔っ払って
 
「この辺でオレより稼いでいる奴はいない」
 
って言ってた奴がいたけれど、ソイツに伝えたい。
 
「時給はオレの方が高い」
 
と。
むしろ、数学的に間違いって水準に近づきつつある。分母が限りなく0って意味で。
いやマジで、持て余すなんてレベルじゃねーぞ、ってな勢いで暇。
 
あした、なにして生きていく?
earth  magic & economy
 

2016年6月30日

 
 

 
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