COLUMN

 


本「カレーライスの誕生」

丸山泰君が本の推薦をしている。

私はこれ程のカレーへの愛と情熱を持って書き上げられた本を他に知らない。著者の飄々とした語り口も絶妙である。
必読!

 
丸と本にまつわるエピソードを、ぼくは一つ記憶している。
中学の頃だ。

ぼくのクラスでは「三国志」がブームとなった。クラスの一人が、「三国志」というゲームソフトを買ったことがきっかけだ。
ちょっと気の利いた奴は、横山光輝のマンガ「三国志」を読んでいた。もちろん、ぼくも読んだ。ぼくはさらに、吉川英治の小説「三国志」も読むことにした。父の本棚にそれがあるのは知っていた。
読み終えるのは結構大変だった記憶がある。苦労して読了した翌日、登校して同級生に片っ端から声をかける。

「吉川英治の「三国志」読んだ?」
「いや、読んでないよ」
「そっかー。そりゃ読まなくたってゲームはできるよ。でもさあ、読んでないんじゃ、三国志の本当のおもしろさが分かんないと思うんだよね」
「…」

すまない。反省している。その後改心して、今でこそ好人物として通っているが、むかしはイヤな奴だったのだ。当時の同級生には謝りたい。

さて、そんなふうにして同級生を全滅させたぼくは、意気揚々と部活へ出掛けていく。丸とはクラスは違ったが、部活が同じだった。

「丸は吉川英治の「三国志」読んだ?」
「読んだよ」
「ちっ」
「吉川英治は、小学生の頃に全部読んだ」
「はぁ?」
「吉川英治なら「三国志」より「宮本武蔵」が好きだな」
「ぐぬぬ…」

いくらなんでも「全部」はウソだろ。しかも、中学のぼくが苦労した本を、小学生の頃にすでに読んでいるだと?しかし、さらっと「宮本武蔵」というタイトルが出てきたじゃないか…。
というような考えが、アタマの中をグルグルと回る。

以来、ぼくは30年にわたり、丸の言動を、常に半信半疑で眺めてきた。
そんな丸の推薦図書。「必読!」とまで言っている。
早速取り寄せて読んでみた。
丸よ、これまで疑っていて悪かった。お詫びに、機会があればカレーをごちそうするよ。そうだな、新宿中村屋の「純印度式カリー」が良いだろう。
うん。おもしろかった。

ところで皆さんは、小菅桂子「カレーライスの誕生」をお読みになっただろうか?
えっ、読んでないの?
そっかー。そりゃ読まなくたってカレーは食べられるよ。でもさあ、読んでないんじゃ、カレーの本当のおいしさが分からないと思うんだよね。
ぜひ、ご一読を。

2014年7月5日

 
 
 
 

 
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