COLUMN
世界まるごとHOWマッチ
ジェラが来た。綴りは知らない。
というか、彼女のこと自体をよく知らない。二度か三度、会ったことはある。顔と名前は覚えている。
ジェラと我が家は、ぼくが高校を卒業して家を出た後の付き合いだったハズ。だからよく知らない。
妹は親しくしていたそうで、彼女のオーストラリアの自宅に、二週間ほどホームステイしたらしい。知らなかった。
何事も最初が肝心だ。愉快なナイスガイと思われなくては。
しかし、ぼくは英語ができない。
ふと、半年ほど前の、某服屋の社長との会話を思い出す。その社長は、夏休みに海外へ行くという。
「いいなー。でも、英語は?」
「できないよー」
「大丈夫なの?」
「なんとかなるよ。“How much ? How much ?”って言ってればなんとかなるもんだよ」
なるほど。そういうものか。
藁にもすがる思いで、叫ぶ。
「ハーマッチ?ハーマッチ?」
完全にヤバイ。
亀田薬局、イニシャルKY。空気読まない。でも、空気を読めないワケじゃない。
気まずくよどむ Atomosphere.
追い込まれる。
そして、パニック。思考が暴走をはじめる。
“How much ?”って「いくら?」って意味だよな。
ハマチ、イクラ、そしてオーストラリア……えーとクジラ?
我ながら狂った連想だとは思う。冷静になれば、ぼくだっておかしいことくらいは分かる。
しかし、パニックとは、人を思いもよらないところへ連れて行くものなのだ。
「Eat KUJIRA ! Eat KUJIRA !」
もうメチャクチャだ。麻生太郎もビックリの失言だ。
黙って聞いていたジェラが口を開く。
「RYO、落ち着いて」
「???」
「大丈夫。日本語で話そう」
「…!?」
ジャパン・アズ・ナンバーワン。美しい国、ニッポン!
英語が話せなくったって、なんとかなるのだ。
たどたどしい英語で会話する姪っ子が
“Perfect English !”
とか褒められている。
くっ…。米っちょ、覚えてろよ。
2015年10月29日