COLUMN

 


春風亭愛橋のこと

 生徒会会長選挙の結果を覚えているだろうか。
 6組の春日浩一くんが当選。得票は600票。
 次点が9組の箭内で、得票は599票。

 箭内の推薦責任者だったぼくは、上級生の選挙管理委員長から

「結果に関わらず電話するよ」

 と言われていたので、夜遅くまで鳴らない電話機を眺めていた。

 翌朝、なぜ連絡くれなかったんだろう、と思いながら登校。玄関に張り出された選挙結果を目にする。
 落選かぁ。
 ぼくは失望しつつも、なんとなくゾクゾクした感情を抱いていた。
 でも、一票差ってのがイケてるよな。のるかそるかみたいなカンジで。

 そんなぼくを見つけ、とぼけた選挙管理委員長が話しかけてきた。

「いやぁ、昨日は電話しなくてゴメンね。実は最初に票を数えたら同数でさぁ。数え直してたら、春日くんの票がぽろっと一枚出てきてね」

 なんということだろう。そんなことってあり得るのだろうか。「ぽろりもあるよ」ってのは、仕込みと相場が決まってるじゃないか。それとも神のいたずら?紙だけに…。

 その後、箭内とは同じ高校へ進学。ただ、それほど親しかったわけでもない。そして、高校卒業と同時にまったくの疎遠となる。

 時は流れる。
 あるとき、知人から

「知ってた?箭内くん落語家になったんだって」

 と聞かされた。にわかには信じられなかった。
 アイツが落語家なら、オレは平成の爆笑王だよ。
 ぼくは半信半疑で、落語会の会場である公民館を訪れた。
 壇上にいるのはまさしく箭内。確かに落語家となり、立派に高座を勤めているではないか。
 その姿を見て、ぼくはあの「一票差の落選」の真の意味を知った。
 オチなきゃハナシにならなかったのだ、と。

2012年8月1日
中学校同窓会記念誌によせて

 
 
 
 

 
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